⑧ 壁土強度試験法の開発

 「⑦告示の問題/壁土」では建築基準法告示における壁土配合に関する例示仕様と運用方法の問題点を説明しました。
 本項では、これらの課題解決に向けた試みの一つとして、平成23年から25年までの3年間、小社と香川県内3つの大学が国の研究助成を受けて行った、共同研究の成果概要を報告します。
 この共同研究では、壁土の強度性能を検証するための試験法、試験データを計算に導く手法の開発、壁土の強度性能を安定向上させる配合設計について研究開発を行いました。

■壁土は建築材料として安定性が劣る

前回報告しました壁土配合に関する告示における例示仕様の問題点は次のようなものです。
 
 1. 告示例示仕様の粘土に該当するものがない
 2. 壁土の配合は多様で告示仕様が使えない
 3. 同等の強度性能を証明する試験法が未確立
 
 これらは、構造設計の前提となる材料性能の安定性を欠く原因となっています。
 土壁の耐力性能は壁土に大きく依存しますが、壁土の建築材料としての安定性は鉄やセメントに比べ著しく劣ります。また施工時の塗厚のばらつきが耐力に及ぼす影響も無視できず、壁土強度と土壁耐力との関係もまだ不明確です。
 土壁を構造設計法の中に正しく位置づけるためには、これらの問題を解決しなければなりません。

 
[課題] 建築材料として強度性能が不安定な壁土は、鉄やセメントなど規格で性能が担保された建築材料のように構造設計法で扱うことが困難である。


 

■問題解決の方針
1)壁土強度性能の試験法を確立する

 壁土を構造設計で扱える建築材料にするためには、まずは、その強度性能を検証する試験法を確立しなければなりません。
 告示やJASS規格に例示の配合は、ある時代に入手できた、限られた地層から採取されていた荒木田土を用いる配合を例にしているようですが、当時使用されていたものと同じ荒木田土以外の壁土用粘土にこの配合は適用できません。
 壁土の配合は、例示仕様に従うことはほぼ不可能です。地域の材料を用いて、それぞれの製造者が配合する壁土を個別に、試験で検証するしか方法はないのです。

2)壁土強度試験データを構造設計につなげる

 耐力壁の構造設計では実大壁の荷重変形角の関係データが必要となりますが、土壁実大試験は時間と費用が多くかかるため、配合が異なる壁土それぞれについて、その都度実大試験を行うことは現実的ではありません。(図 -1

図-1:従来のフロー:実大試験で計算データを求める


 壁土強度試験から実大壁の荷重変形角の関係を求めることができれば、時間と費用がかかる実大試験を行うことなく土壁耐力の構造計算が可能になります。また、壁土の配合が適正かどうかの確認も容易になることで、未経験の材料でつくる使用実績のない壁土でも配合の検討が進めやすくなります。(図 -2

図-2:提案のフロー:壁土強度定数から計算データを推定する

■新しい壁土強度試験法の提案

 告示解説書に参考として記されている平板型の供試体(写真 -1)を用いる試験法には次のような問題があります。
 
 1. 供試体製作が困難で一般化できない。
 2. 供試体形状の問題で割裂引張破壊が生じやすく、強度定数の評価に問題がある。
 
 これら問題を解決する新しい試験法を開発しました。コンクリート強度試験と同じ、円筒型供試体(写真 -2)を使った一軸圧縮強度試験です。
 この試験法により、割裂引張破壊は発生し難く、より正確な強度定数を求めることが可能となります。また製造方法が比較的容易であるため普及が期待できる試験法といえます。
 

写真-1:告示解説書にある平板型試験体による一軸圧縮強度試験


写真-2:提案する円筒型試験体による一軸圧縮強度試験

■壁土強度試験の方法

 提案する円筒形の供試体を用いる一軸圧縮試験法を紹介します。この試験法は多くの実績と検証により信頼性あるものとの評価を得つつあります。
 供試体の寸法は、藁すさの長さを考慮してφ 125×h 250㎜とし、試験には実際に施工するものと同じ藁と水を配合した状態の壁土を使用します。
 
①樹脂製の円筒容器は余分な水が早く抜けるように 2㎜程度の穴を空けておきます。(写真 -3
②穴から土が漏れ出ないように円筒容器内に濾紙を入れ、練った壁土を、力を加えないように円筒容器に数回に分けて入れます。(写真 -4
③ある程度固まった段階で、容器から出して自然乾燥します。(写真 -5
④さらに供試体の水分量を一定にするため恒温恒湿乾燥機で 24時間養生します。(写真 -6
⑤試験機関などで一般に使われている一軸圧縮試験機を使って試験を行います。(写真 -2
 


 

■土壁の荷重変形角の関係を導く推定式の提案

 壁土の圧縮強度試験法が使えるようになることで、配合した壁土が告示の例示仕様と同等性能であることを証明することは可能になります。
 仕様規定の運用問題は解決すると思いますが、壁倍率は 1.01.5での使用に制限されます。
 土壁は変形時における急激な耐力低下が少なく、エネルギー吸収量が大きいという特徴を持っています。このような特徴を活かすには、構造計算につなぐ使いやすい手法(図 -2)が必要になります。
 現在、共同研究チームでは、個別に実大面内せん断試験を行わなくても実大壁の構造計算ができるよう、「壁土一軸圧縮強度試験」から「壁土強度定数」を求め、「実大壁の荷重変形角の関係」を導く推定式(図 -3)の開発を進めています。併せて、性能が安定し強度特性に優れた壁土の配合法も検討しています。

図-3:一軸圧縮試験から実大壁の荷重変更角の関係を推定する


土壁研究報告執筆者の紹介と概要
大西泰弘(有限会社田園都市設計代表取締役、土壁ネットワーク代表理事)
機会をいただき、これまでの調査や研究の成果を連載することになりました。2015年11月号から、阿波のまちなみ研究会(徳島県建築士会)会報「まち研だより」に投稿の記事を掲載します