⑤ 土壁耐力壁の特性

 土壁は粘り強く、大きな変形に耐える耐力壁といわれますが、その耐力特性はどのようなものなのか、これまでの実大試験で確認してきたことを報告します。

■土壁耐力の大半は「壁土」が負担している

 土壁耐力に影響する要素は工程順に、軸組と貫、間渡や木舞の下地、荒壁、裏返し塗り、貫伏せ塗り、大直し塗り、中塗り、で構成されています。(図 -1

図−1:土壁の塗り工程(香川県の場合)


 
 これら耐力要素の効果を6尺壁の実大試験で確かめてみました。図-2はその試験体図です。
 図-3は、壁土を塗り重ねる工程別に実大試験を行った、それぞれの荷重変形角の関係を示すものです。「軸組だけ」、「荒壁+裏返し」、「荒壁+裏返し+大直し」、「荒壁+裏返し+大直し+中塗り」へと塗り工程が増すほどに最大耐力が向上することが確認できます。

図-2:実大試験帯図


 

図−3:6尺壁の工程別 荷重変形角の関係(香川県の壁土の場合)


 
 図-4は、中塗りの工程「片面塗り」と「両面塗り」それぞれの場合の荷重と変形の関係を比較したものです。中塗りの両面塗りの効果を確認することができます。
 土壁耐力の約8割(壁土と一体となった木舞など下地の影響も含む)は壁土が負担するという研究報告があります。壁土の強度性能は、土壁耐力に大きく影響するものといえます。

図−4:6尺壁の中塗り 荷重変形角の関係


 
 参考までに、軸組の役割を説明しておきます。
 軸組の壁耐力への影響は大きくありませんが製作上留意することがあります。軸組は土壁を拘束して壁土の耐力を向上させます。そのため接合部が大切になります。仕口の役割は以下の二点です。
1. 変形に対して材の「めり込み」などで抵抗する。
2. 変形が進行して接合部が外れないよう維持する。
建物への荷重により接合部に大きな引き抜き力が発生するので特に「 2」は重要になります。(写真-1、2)

 

■土壁とその他の耐力壁との違い

木造住宅に使われる一般的な耐力壁(3尺壁)の特性を実大試験で比較しました。(図 -5

図−5:主要な耐力壁 荷重変形角の関係(土壁は香川県の壁土の場合)


 土壁の最大耐力は差ほど大きくなく、変形が進むにつれ耐力は緩やかに低下します。(6尺壁では最大耐力は大きく低下はやや早い、図 -34参照)一方軸組は、枘や込栓の破壊、貫のめり込み等で変形が進むほど耐力は増加します。(写真 -34
 

写真−3:込栓の破壊が先行した場合


写真−4:貫のめり込み抵抗


 
 石膏ボードや構造用合板など面材の多くは最大耐力は大きく、破壊は釘部分で起こります。(写真 -5

写真−5:石膏ボード 釘部分の破壊


 
 筋かいは、木材の座屈か仕口の破壊で耐力の終局を迎えます。(写真 -67

 
 耐力壁を選ぶ場合、耐力特性の違いを理解し、特性が大きく異なる耐力壁を併用する場合は注意が必要です。
 例えば土壁と筋かいを併用する場合、初期剛性に有利な筋かい、変形に有利な土壁、それぞれの特徴が生きる場合もありますが、筋かいの座屈で土壁が破壊されることもあります。(写真 -89

土壁研究報告執筆者の紹介と概要
大西泰弘(有限会社田園都市設計代表取締役、土壁ネットワーク代表理事)
機会をいただき、これまでの調査や研究の成果を連載することになりました。2015年11月号から、阿波のまちなみ研究会(徳島県建築士会)会報「まち研だより」に投稿の記事を掲載します