⑦ 告示の問題/壁土

 「⑥告示の問題/竹小舞」に引き続き、平成15年に改正された土塗壁耐力壁に関する建築基準法告示の問題について、「壁土の配合」の問題点について報告します。

■ 建築基準法告示の例示仕様

 改正後の建築基準法告示における「壁土の配合」に関する例示仕様は以下のとおりです。
○荒壁土の仕様
土:荒木田土、荒土、京土、これらに類する砂質粘土
土100㍑に対する「わらすさ」量:0.4㎏以上、0.6㎏以下
又は、同等以上の強度を有するものに限る
○中塗り土の仕様
土:荒木田土、荒土、京土、これらに類する砂質粘土
土100㍑に対する砂の量:60㍑以上、150㍑以下
土100㍑に対する「もみすさ」量:0.4㎏以上、0.8㎏以下
又は、同等以上の強度を有するものに限る

・・・・、荒壁土(百リットルの荒木田土、荒土、京土その他これらに類する粘性のある砂質粘土に対して〇・四キログラム以上〇・六キログラム以下のわらすさを混合したもの又はこれと同等以上の強度を有するものに限る。)を両面から全面に塗り、かつ、中塗り土(百リットルの荒木田土、荒土、京土その他これらに類する粘性のある砂質粘土に対して六十リットル以上百五十リットル以下の砂及び〇・四キログラム以上〇・八キログラムのもみすさを混合したもの又はこれと同等以上の強度を有するものに限る。)を別表第三(い)欄に掲げる方法で全面に塗り、土塗壁の塗り厚(柱の外側にある部分の厚さを除く。)を同表(ろ)欄に掲げる数値とした土塗壁を設けた軸組

表−1:建築基準法告示文・「荒壁土」と「中塗り土」配合の抜粋
 

 現場で起きた問題

 香川県では、木造住宅の中間検査と改正告示の施行が同時期に始まりました。新たに加わった耐力壁の審査は厳格に行われ、問題が起こりました。

1)砂質粘土が告示の例示仕様に該当しない

 一つ目の問題は、『香川県で一般に使用する砂質粘土は、「荒木田土、荒土、京土、これらに類する砂質粘土」のどれに該当するのか』でした。
 荒木田土と荒土、この二つの用語は「建築工事標準仕様書・ JASS 15/左官工事」(以下、 JASS 15という)の材料一般に明記されています。告示の例示仕様はこれに基づいてつくられているようですが、これら用語は規格や品質など基準を示すものではありません。そのため、「これらに類する・・」を判断する根拠がよく分からないのです。
 かつて壁土に使われていた荒木田土は、荒川下流域で採れたものでしたが、現在流通している荒木田土の多くは上流域の比較的浅い層で採取し(写真 -1)、グランド表土や植栽用に使われています。 JASS 15に記載された荒木田土が、かつて壁土に使用されたものを指すのであれば、 JASS 15の引用が適切かどうかを確かめることが必要です。
 荒土は、用語の説明が見つかりません。荒壁に使用する土を指す用語らしく、告示で云う「これらに類する・・」に該当するものと思われます。
京土についても、過去に京都あたりで一般に使われていた土のことらしく、これも規格や品質の基準は曖昧です。
 例示仕様への適合は「土塗壁・面格子壁・落とし込み板壁の壁倍率に係わる技術解説書」(以下、技術解説書という)に基づいて判断するのですが、客観的判断材料が不足するうえに、告示文の効力は大きく、審査機関は慎重にならざるを得ません。
 香川県内の壁土製造所がつくる壁土には、使用実績はありましたが、告示の例示に該当するものとは認められませんでした。結果、技術解説書に示された最大圧縮強度(表 -2)を、技術解説書に例示の圧縮強度試験法で確認し、壁土として同等性能以上であることを証明することになりました。
  最大圧縮強度(N/㎟)
荒壁土 0.30以上
中塗り土 0.55以上
荒壁土・中塗り土の一体 0.40以上

表−2: 技術解説書に示された壁土の最大圧縮強度
 

写真-1:荒木田土を採取している埼玉県の荒川河川敷

2)壁土の配合は多様で仕様規定が使えない

 二つ目の問題は、『例示仕様の配合と同等以上の強度であることをどう証明するのか』です。
 荒壁土の配合について、技術解説書には以下のような解説があります。(表 -3
・ 告示の例示は荒木田土を想定したものである。
・ 諸条件により配合比率は異なる。
・ 壁土としての良否を総合的に判断し、比率を調整することが望ましい。
 
 告示の例示は荒木田土の場合の参考値であり、荒木田土以外の土では使えないということです。
 表-4は、小社が調査を行った全国の荒壁土の「わらすさ」配合量です。香川県での荒壁土の「わらすさ」配合割合は告示の3倍以上です。また、この調査では荒木田土の圧縮強度試験を行うため、香川県の左官技能士が「荒木田土」を用いて荒壁土を試作しました。荒木田土100㍑あたりの「わらすさ」は0.9㎏で、例示仕様に示された数値を超えていました。
○わらすさ混入量
告示に示された比率を原則とする。ただし、この比率は関東の荒木田土を想定したものであり、壁土の性質の他、施工上検討の要因によって適切な比率は異なる。このため、左官技能士の監督の下で調合・試験塗りを行い、壁土としての良否を総合的に判断し、この比率を調整することが望ましい。

表−3: 技術解説書・荒壁土の調合より抜粋
 

表-4:中部・西日本における荒壁土「わらすさ」配合量の比較


 以上より、壁土配合に関する告示は「仕様規定」では運用できないことが分かりました。技術解説書(表 -3)に書かれている「この比率を調整することが望ましい」からも、同等性能以上を証明する圧縮強度試験が欠かせないことが読み取れます。
 

3)壁土圧縮強度試験法の問題

 三つ目は『圧縮強度試験法』の問題です。
 2005年、香川県内の現場で起こった問題を受け、四国職業能力開発大学校で壁土圧縮強度試験を行い、当時稼働していた香川県内 8社の壁土製造所が製造する荒壁土の圧縮強度を調べました。
 試験は技術解説書に従い実施しました。型枠用合板で作成した 400× 600×深さ 70㎜のバットに壁土を充填し乾燥、バットで乾燥した壁土から 150× 150㎜の試験体を 6体切り出し、万能の圧縮試験機で試験を行うという流れです。
 その後も数年間、この試験法を改良しながら各地の壁土強度試験を行ってきました。
 そこから以下のような問題が確認できました。
△ 乾燥収縮が大きく均質な試験体製作は困難、後に製作方法を改良したが内部割れなどのリスクを伴う(写真-2)
△ 試験体切分けは丸鋸を使用、刃こぼれ、周辺の汚れ、切断の難しさなど一般の試験場での製作は困難(写真-3)
△ 試験体の幅と高さの比が1:1のため、せん断ひび割れ面が規定され、割裂引張破壊が生じやすく、強度定数の評価に問題がある(写真-4)
 この試験法の問題は、壁土強度定数の評価が難しいことと、試験に手間がかかることです。

写真-2:バットで乾燥、型枠に付着し内部まで収縮割れ発生



 
 壁土に使用する砂質粘土の性質や施工方法は地域により異なり、職人技術者にも違いがあります。そのため、ワラなどの配合は様々で、これを一つの仕様にまとめることには無理があります。壁土配合に関する告示は「仕様規定」なのですが、試験で圧縮強度を確かめる必要があります。
 そこで重要になるのが圧縮強度試験ですが、現在の試験法は多くの手間がかかり、強度定数の正確な評価が難しいという問題を抱えています。
 次の項では、このような課題をどう解決しようとしているのか、その試みを紹介します。
 

土壁研究報告執筆者の紹介と概要
大西泰弘(有限会社田園都市設計代表取締役、土壁ネットワーク代表理事)
機会をいただき、これまでの調査や研究の成果を連載することになりました。2015年11月号から、阿波のまちなみ研究会(徳島県建築士会)会報「まち研だより」に投稿の記事を掲載します