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土壁の耐震性向上のための技術的研究
報告書 2009年3月

 2001年に国土交通省住宅局は、木造住宅の長寿命化を目的とした「長寿命木造住宅推進プロジェクト」を立ち上げ、地域の伝統的材料と技術を生かした住まいづくりを推進するための環境整備に乗り出しました。2003年12月には土塗壁等の壁倍率にかかわる告示改正が行われました。この改正により、それまで0.5という低い数値に抑えられていた土塗壁の壁倍率に、新たに1.0及び1.5が加えられ、ようやく土塗壁を耐力壁として住宅を建てる法的条件が整いました。一方でこの告示が仕様規定であり、材料と工法に細かな数値が記載されたため、運用に際しこれを厳密に適用しようとする検査機関と現場との間にトラブルが続くこととなりました。
 このような中で、私たちは技術者として、地域性を考慮しつつ、土塗壁の科学的・工学的検証を行うことの中から良い解決策を見出していく必要があると考え、2006年度(2006年6月~2007年3月)に「壁土の圧縮強度試験」と「土塗壁の実大面内せん断試験」を行いました。
 試験の結果、「土の強度が壁土の強度ではなく、強度にはワラスサの質と量の影響が推測されること」、「香川県で一般的に施工される土塗壁が告示に示された耐力性能を満たすこと」、「土塗壁は複数の材料から成る複合壁であり、その耐力は個々の構成材料ではなく、壁の状態で判断すべきであること」等が確認されました。
 このような経緯で始まった研究ですが、実際の現場で「耐力壁として良い土塗壁」を作るために確認しておくべきことはまだまだたくさんあり、引き続き実大試験を継続することになりました。2007年度と2008年度には、現場に必要な情報を得るために、土塗壁の耐力に影響を与える要因である「中塗り厚さ」、「中塗りの片面と両面塗り」、「間柱や造作による荒壁の欠損」、「筋かい併用」、「開口部のある土壁」等の耐力への影響について試験を行いました。
 そのような折、これまでの試験結果を広くお伝えできる機会を得ることになり、同様の研究に携わる方々や実務者の方々にご利用いただけるよう、土壁ネットワークが四国職業能力開発大学校と行ってきました過去3年間の共同研究成果を1つの冊子にまとめました。